『ちゃんと寝たのに、朝から肩が重い』『腰の痛みが、忙しい週ほどひどくなる』。これ、気のせいだと思っていませんか。
実は、睡眠と痛みの関係は、ここ十数年でかなり研究が進んでいる分野です。この記事では、「睡眠が足りないと、あとから肩や腰の痛みが出やすいのか」を調べた研究をいくつか読み解きながら、寝不足と肩こり・腰痛のつながりを整理してみます。研究の数字は目安で、同じ睡眠時間でも痛みの出方は人によって違う、という前提で読んでください。
SUPERVISOR / この記事の監修者
久保 聖史
株式会社COmedi 代表取締役
資格柔道整復師
- Asia Massage Championship2024 審査員
- Massage World Championship2025 審査員
- Asia Massage Championship2026 審査員
目次
睡眠に問題がある人は、あとから痛みが出やすい

まず、いちばん規模の大きい研究から。
2024年に痛みの専門誌「Pain」に載ったシステマティックレビューとメタ解析では、成人を時間をおいて追いかけた11の集団、合計116,746人分のデータをまとめています。結果は、最初の時点で睡眠に問題があった人は、そうでない人に比べて、あとから慢性的な筋肉・関節の痛みを抱えるリスクが高い、というものでした。数字で言うと、短期ではオッズ比1.64、長期では1.39。これは発症確率そのものが1.4〜1.6倍になる、という意味ではありません。オッズ比と発症確率の倍率は別なので、そこは分けて受け取ってください。
これより前の、スウェーデン・マルメの研究も分かりやすいです。45〜64歳の働いている4,140人を1年間追ったところ、最初に睡眠の問題があった人は、1年後に首・肩・腰の痛みが出ていたオッズが、男性で1.72倍、女性で1.91倍。著者らは「人口全体で新しく出てくる慢性痛の15〜20件に1件は、睡眠の問題で説明できるかもしれない」とまで書いています。
寝不足が先で、痛みがあと。この順番が、複数の研究で繰り返し出ているのがポイントです。
ただし、どちらもアンケートで睡眠を聞いている研究なので、「何時間寝れば痛みが出ない」とは言えません。オッズ比1.6も、「寝不足の人は全員痛くなる」という意味ではないので、そこは要注意。
一晩の寝不足でも、痛みの感じ方は変わる
「何年も追いかけた研究」とは別に、「たった一晩で何が起きるか」を見た研究もあります。
2019年に神経科学の専門誌に載った研究(Krauseら)では、健康な成人に一晩眠らずに過ごしてもらい、翌日に脳の反応(fMRI)と痛みの感じ方を測りました。すると、寝不足の翌日は、痛みとして感じる温度の範囲が広がっていました。つまり、同じ刺激でも「痛い」と感じるラインが下がっていた、ということです。
脳の中では、痛みの刺激を受け取る体性感覚野の反応が強まる一方で、痛みを評価して抑える側の領域(線条体や島皮質)の反応は鈍っていました。感じる側のボリュームが上がって、抑える側のボリュームが下がる。寝不足の翌日に、いつもの肩こりが妙につらいのは、たぶんこの状態なんだろうなと。
同じ研究では、実験室の外でも、一般の人に日々の睡眠と痛みを記録してもらっています。前の晩の睡眠の質が少し下がるだけで、翌日の痛みは少し増え、睡眠の質が上がると痛みは減る、という日ごとの関係も確認されました。
日々の睡眠のわずかな差が、翌日の痛みに出る。「忙しい週ほど痛い」が気のせいではなさそうだ、と言えるのはこのあたりが根拠です。
日本では、約4割の人が6時間未満
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の推奨は【適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する】となっています。
では実際にどのくらい寝ているか。令和元年の国民健康・栄養調査では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人は、男性37.5%、女性40.6%。男性の30〜50歳代、女性の40〜50歳代に限ると、4割を超えています。
働き盛りの年代ほど、睡眠が削られている。ほんでもって、同じ資料では「睡眠で休養が十分にとれていない人」の割合が、ほぼ全ての世代で増加傾向、とも書かれています。寝る時間が短くて、休めた感じも薄い。痛みの話と無関係とは、ちょっと思えません。
痛みが先か、寝不足が先か

ここで出てくるのが、『痛いから眠れないだけでは?』という疑問。これはそのとおりで、逆向きの関係もあります。
先ほどの2024年のメタ解析でも、最初に慢性的な痛みがあった人は、短期的に睡眠の問題を抱えるオッズが1.56倍。特に、身体の広い範囲に痛みがある人は、長期的に睡眠の問題を抱えるオッズが2.0倍でした。
てことは、睡眠の問題と痛みには、両方向の関連が示唆されている。ただし、これらの観察研究だけでは、因果関係や悪循環の仕組みまでは断定できません。肩や腰の痛みを考えるときに、睡眠にも目を向けたい、というのがボクの受け止めです。
ただし著者らも、「双方向の関係については、さらに研究が必要」と慎重に書いています。断定はしていません。
睡眠の側からできること
研究を読んで、ボク自身が気をつけているのは、派手なことではありません。
- 睡眠時間を削らない。忙しい時期ほど、まず睡眠を後回しにしない。ガイドの目安は6時間以上。
- 起きる時刻を大きくずらさない。休日の寝だめで帳尻を合わせるより、起床時刻をそろえる。
- 寝る直前に追い込む運動をしない。夜に動くこと自体は問題ないという研究もありますが、寝る1時間前までには終える。
どれも地味です。でも、睡眠は「痛みの治療」の文脈ではまだあまり語られていない分、伸びしろが大きいとも感じています。
一つだけ注意点。睡眠ガイドにも「睡眠の不調や休養感の低下が続く場合は、病気が潜んでいる可能性にも留意する」とあります。いびきが強い、日中に強い眠気がある、眠れない状態が何週間も続く、という場合は、整体より先に医療機関で相談してください。
肩こり・腰痛で来院される方へ
HALII TOKYO.では、初回の問診と検査で、痛みの場所や動きだけでなく、普段の生活についても伺っています。「最近どのくらい寝ているか」「朝起きたときに痛みが強いか」は、ぜひそのまま教えてください。身体の状態を説明しながら施術を進めるときに、睡眠の情報があると見立てが変わることがあります。
肩こりや腰痛の原因と対処法は、それぞれのページでも詳しく説明しています。
最後に。みなさんは、肩や腰の調子と睡眠のつながり、感じたことはありますか?「忙しい週ほど痛い」に心当たりがある方は、肩や腰だけでなく、睡眠の記録も一度つけてみてください。
参考文献
- Runge N, et al. The bidirectional relationship between sleep problems and chronic musculoskeletal pain: a systematic review with meta-analysis. Pain. 2024;165(11):2455-2467. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38809241/
- Canivet C, et al. Sleeping problems as a risk factor for subsequent musculoskeletal pain and the role of job strain: results from a one-year follow-up of the Malmö Shoulder Neck Study Cohort. International Journal of Behavioral Medicine. 2008;15(4):254-262. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19005925/
- Krause AJ, et al. The Pain of Sleep Loss: A Brain Characterization in Humans. The Journal of Neuroscience. 2019;39(12):2291-2300. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30692228/
- 厚生労働省 健康・生活衛生局健康課「休養・睡眠領域 資料」(第2回 健康日本21(第三次)推進専門委員会 資料4-1、令和6年3月11日。健康づくりのための睡眠ガイド2023の推奨事項、令和元年国民健康・栄養調査の睡眠時間の結果を含む) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001222160.pdf
