お腹の調子がいい日は、よく眠れている気がする。逆もまた然り。この感覚、研究ではどこまで裏づけがあるのか。

『腸活すると睡眠の質が上がる』という話は、SNSでも商品の説明でもよく見かけます。ただ、言い切っているものほど、出典が付いていないことが多い。今回は、腸内細菌と睡眠について数字のある研究を3つ読んで、「言えること」と「まだ言えないこと」を分けてみます。

株式会社COmedi 代表取締役 久保聖史

SUPERVISOR / この記事の監修者

久保 聖史

株式会社COmedi 代表取締役

資格柔道整復師

  • Asia Massage Championship2024 審査員
  • Massage World Championship2025 審査員
  • Asia Massage Championship2026 審査員

腸内細菌が多様な人ほど、よく眠れていた

白いテーブルに置かれたヨーグルトと野菜の小皿

最初は、腸内細菌と睡眠を調べた研究から。アメリカの研究チームが、健康な若い男性26人(平均22歳)に活動量計を30日間つけてもらい、便の菌を解析した観察研究です。

結果は、腸内細菌の多様性(種類の豊富さと分布を反映するShannon指数)が高い人ほど、睡眠効率(床にいた時間のうち眠っていた割合)が高く、相関係数は0.643。夜中に目が覚めている時間は短い傾向でした。菌の「多様性」が、眠りの数字と並んで動いていた、ということです。

ただし、男性26人だけの観察研究です。因果は分かりません。よく眠れているから菌が多様なのか、菌が多様だからよく眠れるのか、この研究では決められない。睡眠も脳波ではなく活動量計の推定値です。著者自身も、菌を変えれば眠りが良くなるかは「さらに研究が要る」と書いています。

では、菌を足したら眠れるのか

ガラス瓶に入った発酵食品と木のスプーン

観察研究で「関連がある」と分かったら、次に見るのは介入研究です。実際にプロバイオティクス(生きた菌)やパラプロバイオティクス(生きていない菌体など)を摂ってもらって、睡眠が変わるかを調べた試験をまとめたものがあります。

2020年のシステマティックレビューとメタ解析では、1980年から2019年10月までの14研究(20試験)を集めました。結果、これらの摂取前後の比較で、自分で評価する睡眠の質の点数(PSQI)は0.78点改善。これは統計的に有意でした。一方で、脳波や活動量計で測った睡眠効率や寝つくまでの時間など、客観的な指標では有意な変化はなし。他の主観的な尺度でも差は出ていません。

「本人が感じる眠りの質は少し良くなったが、客観的指標の改善は確認できなかった」。この2020年のレビューで確認された範囲です。効果が大きめだったのは、健康な人、1種類の菌、8週間以上の摂取、という条件でしたが、これも統計的に確かな差ではありませんでした。

てことは、サプリや飲料で「睡眠の質が上がる」と言われたら、「本人の感じ方は変わるかもしれないが、測った睡眠が変わる証拠はまだ薄い」と読むのが、研究に沿った受け止め方です。

発酵食品で、菌の多様性は上がる

ここまでで、「多様性と眠りは関連する」「菌の摂取による客観的な睡眠指標の改善は確認できなかった」が分かりました。では、多様性そのものを食事で上げることはできるのか。

2021年にスタンフォード大学のチームが発表した17週間のランダム化試験では、健康な成人を「食物繊維を増やす群」と「発酵食品を増やす群」に分けました(各群18人)。発酵食品を増やした群では、腸内細菌の多様性が着実に増え、複数の炎症マーカーが低下しました。一方、食物繊維を増やした群では、多様性自体はほぼ変わらず、菌が持つ糖質分解酵素の遺伝子が増えていました。

発酵食品で多様性が上がる。多様性が高い人は眠れている。この2つをつなげると「発酵食品で眠れる」と言いたくなりますが、それは別々の研究を勝手につないだ推論で、直接確かめた研究ではありません。しかも36人の小さな試験で、睡眠は測っていない。ここは踏みとどまります。

いま言えること、まだ言えないこと

研究を3つ並べると、こう整理できます。

言えること まだ言えないこと
多様性と眠り 腸内細菌が多様な人ほど、睡眠効率が高い傾向(26人の観察研究) どちらが先か。菌を変えれば眠れるか
生きた菌・生きていない菌体などを摂る 本人が感じる睡眠の質は少し改善(14研究のメタ解析) 測った睡眠(効率・寝つき)が良くなるか
発酵食品 腸内細菌の多様性が上がる(36人の試験) それで眠りが変わるか(未測定)

「関連はある。向きはまだ分からない」。研究を3つ読んで、区別しておきたい点はここです。

腸と眠りで、ボクが提案したいこと

研究が「まだ分からない」と言っているところで、無理に結論を出す必要はありません。ここから先は研究結果ではなく、研究を読んだうえでボクが提案したいことです。眠りのためというより、食事として無理のない範囲で。

  • 発酵食品を1日1回、どれか。ヨーグルト、納豆、味噌汁、キムチ。食事の選択肢として、無理のない範囲で取り入れる。研究の量や頻度を再現する提案ではありません。
  • お腹の調子と眠りを、同じ日記に書く。日々の変化を振り返ってみる。日記だけで因果関係は判断できません。便の調子、寝た時刻、起きた時刻、起きたときの感じ。2週間で何か見えることがあります。
  • 「このサプリで睡眠が変わる」には、測った睡眠のデータがあるかを見る。本人の感想と、客観的な指標の結果は分けて読みたいところです。

ただし、腸の不調が続くときは、腸活の前に消化器内科などへ相談してください。突然の激しい腹痛、激しい腹痛が続く、血を吐く、血便が出るときは、厚生労働省の救急案内に従い119番です。睡眠の不調や休養感の低下が続く場合も、睡眠ガイド2023が示すとおり、病気が隠れている可能性を考えて医師へ相談してください。

整体院で、お腹と眠りの話をする理由

HALII TOKYO.では、局所だけでなく全身の連動や原因の組織から身体の状態を見立てる方針です。肩や腰の話に加え、睡眠や食事で気になることもお伝えください。眠りや腸の病気の診断は医療機関での確認が必要です。

栄養のことは、院で栄養指導としてもご相談いただけます。公開メニューでは、体調や生活習慣、施術に合わせた栄養のカウンセリングを案内しています。施術で身体の外側から、食事で内側から。両方を見られるのが、整体院で栄養の話をする意味だと思っています。

お腹の調子と眠りが連動している感覚、みなさんはありますか? あるなら、2週間だけ同じ日記に書いてみてください。日々の変化を振り返る手がかりになるかもしれません。

参考文献