「自律神経の乱れですね」。この一言で、だるさの原因探しが止まってしまうことがあります。

『検査では異常なしと言われた』『でも、朝起きられないし、昼間もずっとだるい』。整体院にも、こういう状態で来られる方がいます。自律神経という言葉は便利で、たいていの不調に当てはまってしまう。だからこそ、その言葉で片づける前に、一度立ち止まって確認したいことがあります。

この記事では、「自律神経の乱れ」と呼ばれがちな不調の裏に、別の原因がないかを考えるための研究や資料を3つ取り上げます。そのうえで、整体で相談できる範囲と、先に医療機関で調べてほしいことを分けて書きます。

株式会社COmedi 代表取締役 久保聖史

SUPERVISOR / この記事の監修者

久保 聖史

株式会社COmedi 代表取締役

資格柔道整復師

  • Asia Massage Championship2024 審査員
  • Massage World Championship2025 審査員
  • Asia Massage Championship2026 審査員

「自律神経失調症」は、消去法のあとに残る言葉

白い机に置かれたノートと鉛筆

厚生労働省の「こころの耳」では、自律神経失調症を、明らかな身体の病気がないにもかかわらず、自律神経のバランスが崩れていると感じることによる不調、と説明しています。症状として挙がっているのは、全身倦怠感、めまい、頭痛、動悸。

ここで引っかかってほしいのが、「明らかな身体の病気がないにもかかわらず」の部分です。まずは医師が身体の病気などの可能性を調べることが大切です。ただし、検査で異常がないだけで「自律神経」と決まるわけではありません。

ところが、だるさや動悸を調べる前に「自律神経ですね」で片づけてしまうと、原因探しが止まりかねません。整体院の側も、その言葉に乗っかりやすい。ボクはここに、ずっと違和感を持っています。

裏に隠れていたもの、3つ

1. 貧血ではないのに、鉄が足りていない

スイスのかかりつけ医で行われた研究です。原因のはっきりしない疲労を訴える18〜55歳の女性144人のうち、貧血ではない人だけを対象に、鉄剤(元素鉄80mg/日)とプラセボに分けて4週間飲んでもらった、二重盲検のランダム化比較試験。

疲労の強さ(10点満点)は、鉄の群で6.37から1.82下がり(29%減)、プラセボ群は6.46から0.85(13%減)。差ははっきり出ました。ただし、この試験のサブグループ解析で改善が確認されたのは、血液中のフェリチン(鉄の貯金の目安)が50µg/L以下の人でした。

「貧血なし」でも、鉄の貯金が少ないことはある。それが数字で見えたのが、この研究の面白いところです。

ただし2003年の研究で、対象は女性だけ、期間は4週間。鉄にはとりすぎの害もあるので、「だるいなら鉄のサプリ」という話ではありません。だるさが続くなら、血液検査でフェリチンも見てもらう、という選択肢を知っておく。それだけで、原因探しの幅が変わります。

2. 甲状腺のホルモンが足りていない

日本内分泌学会は、甲状腺機能低下症の症状として、無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作が遅くなる、記憶力の低下、便秘を挙げています。

並べてみると、「自律神経の乱れ」と言われる症状と、かなり重なりますよね。しかもこの病気は、症状や血液検査での甲状腺ホルモンとTSH(甲状腺刺激ホルモン)の値などから、医師が診断します。原発性の甲状腺機能低下症でいちばん多い原因は橋本病で、女性に多い病気です。

だるさに加えて、寒がりになった、むくむ、体重が増えた、という組み合わせがあるなら、「自律神経」より先に、血液検査で甲状腺を見てもらう価値があります。

3. 睡眠が、量も規則性も足りていない

ここでは、まず生活の確認です。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の目安を「個人差はあるが6時間以上」とし、睡眠の不調や休養感の低下が続く場合は、病気が潜んでいる可能性にも留意する、と書いています。

寝る時刻と起きる時刻が日によって大きくずれていると、睡眠時間は足りていても、だるさが残ることがあります。以前の記事でも書きましたが、起床時刻をそろえることも、生活で確認したい点です。

ほんでもって、睡眠不足が先にあって、そのだるさに「自律神経」の名前がついている、というケースは、整体院で話を聞いていると珍しくない印象です。もちろんこれはボクの印象で、数字ではありません。

「自律神経」の前に、血液検査で見てほしいもの

大きな窓から自然光が入る明るい寝室

ここまでの3つを、確認の順番にすると、こうなります。

  • 睡眠:まず、ここ2週間の寝た時刻・起きた時刻を書き出してみる。6時間を切る日や、起床時刻のずれが大きい日が多ければ、生活を見直す手がかりに。ただし、不調が続くときは記録のために受診を遅らせないでください。
  • 血液検査:だるさが続くなら、内科で相談する。一般的な貧血の項目(ヘモグロビン)に加えて、フェリチンと甲状腺(TSH・甲状腺ホルモン)も見てもらえるか、聞いてみる。
  • そのうえで残るもの:検査で異常がなくても不調が続くなら、「自律神経」と自己判断せず、引き続き医師に相談する。

ただし、血液検査の項目を決めるのは医師です。この記事は「こういう項目がある」と知ってもらうためのもので、「この検査を受ければ原因が分かる」と約束するものではありません。だるさの裏には、ここに挙げていない病気もあります。

整体で相談できるのは、ここから

HALII TOKYO.の自律神経のページにも書いていますが、動悸・めまい・強い疲労感・眠りにくさの原因は、自律神経だけとは限りません。だから院では、症状が続く方には医療機関への相談を先にお願いしています。

そのうえで、医師の評価を踏まえたうえで残る、首や背中のこわばり、日中の緊張に伴う身体の張り。こうしたものは、整体で相談していただける範囲です。初回の問診で、睡眠の記録や血液検査の結果をお持ちいただければ、身体の状態を把握する参考になります。整体は医師の診断や治療の代わりではありません。

「自律神経の乱れ」という言葉を、入口ではなく、出口にする。調べたうえで残ったものに対して、身体の側からできることを一緒に探す。それが、ボクの考える整体院の役割です。

最近「自律神経ですね」と言われた方。フェリチンや甲状腺を含め、必要な検査について医師に相談しましたか?

参考文献